山神様にお願い
3、天才の証明
・天才の証明・
刃物を使うならな、龍、生かすために使いな。
そう言って考さんが包丁の使い方を教えてくれたんだった。
誰かを傷つけるためでなく、誰かを喜ばせるために。刃物を使うなら美味しいものを作れや、って。
良いことを言ってるんだろうな、程度の感覚しかなかった。俺はスキンヘッドでいかつい外見をした人生の恩人である彼を見上げてうんと頷いたけど、ただ美味しいものを食べたかっただけだからだった。最初の頃は。
自分でうまい食べ物が作れたら、便利じゃね?って感じ。
暴力野郎のクソバカ親父を刃物で刺してこらしめようとか思ったわけではない。ボクシングを学ぶことで親父に負けないように力をつけたことは分かっていた。弟は頭と精神、俺は身体と精神を鍛えて、母親と自分達を親父から守ることは充分とは言えないけれど出来ていたころだった。
それに、そのロクデナシ野郎は路上での喧嘩が原因で刑務所に入り、その中でも喧嘩をして殺されてしまったのだ。母親に弟、俺達親子が色んな意味で自由になった、その頃だった。
俺が料理を覚えたのは。
そっか料理か。
うまいものを自分で作れたら便利だろうな、そんな感覚がずっと消えないままで、中学を卒業してから料理学校へと進んだ。
で、俺は今、料理人として生計をたてている。
ここ、酒処山神で。