山神様にお願い
店長をしてもらう、夕波だ。そう言って日々立さんが紹介してくれたのは、若い、だらっとした感じの色白の男だった。シミひとつない白い肌に細い体、ひゅっと切れ上がった目がおとなしそうな雰囲気で、俺は正直、大丈夫かこいつでと思ったんだった。
ひょろいなー、って。それに柔そう・・・。酒処なんてかっこつけても所詮お水の世界だ。こいつにその接客や対応が出来んのか?って。
経験は?人を使ったことがあるのか?料理のことを何か一つでも知っているのか?疑問だらけだった。
だけど一度は信頼した日々立さんがこいつを推すというんだから、俺は従うだけ。そう考えて、自己紹介を済ませた。おおっぴらに見下した態度で。だって年下だし、弱そうだったし。
その時は目の前に立つ若者が、それまでの人生で結構な修羅場を生き抜いてきたヤツだったなんて勿論しらない。それはあとで十分知ることになったんだけど、とにかくその時の虎は突っかかってはこなかったから、俺達は至極無難な感じのままで毎日は過ぎて行った。
ヤツは変わってた。
やたらと植物フリーク。変態のレベルで植物愛好家だった。そして、どうでもいいことにこだわる。例えば従業員を雇うときの条件(名前に動物の漢字が入っていること)とか。例えば自分が休みをとる場所である、2階の改装条件(観葉植物で部屋中をうめ、壁や天井も緑色にぬること)だとか。いやー・・・変人だわこいつ、呆れた俺はそんなことを思っていたのだった。