山神様にお願い


 だけど日々立オーナーの見立ては正解だったんだな、とすぐに判った。

 人のさばきかたが、こいつはうまい。従業員の長所をみつけて褒めるのも上手だし、やっかいな客のあしらいにも慣れている。たまにぎょっとするような不穏な目つきをすることがあるし、こんな外見で実は属性はサドっぽいけれど、概ね穏やかで明るくひょうきんな“店の顔”だった。

 だから俺は安心して、自分に任せられた仕事をこなしていた。肩の力を抜いて。厨房には俺の上司はいないわけで、自分がここにいるのは楽しいと思いながら過ごしていることに気がついてビックリしたほどだ。

 大衆イタリアンの厨房にいたのは、茶髪で長めの髪、耳に開けた3つのピアスホール、それからよく青あざを作ってくる顔という、外見の派手さから他では雇ってもらえなかったからで、実際に苦手な料理分野があったわけではない。日々立オーナーの作った酒処山神ではこれと言う決まりはなく、創作料理、和洋折衷の料理も歓迎されたのだ。下手したらB級グルメと区分されるようなものも。嬉しくて、俺はぐんぐんと色んなものを試し、作っては試食会を開いて、虎の許可を得て店のメニューを増やして行った。

 その時のホールのアルバイターに、鷹がいた。鷹持ユウセイと言う名前のフリーターで、居酒屋勤務は慣れているようだった。年も俺に近くて気があい、もう一人のフリーターであるツルともほどほどに仲良くやっていた。

 だけどある晩、そのタカと俺が、店長である夕波虎太郎をマジ切れさせてしまって─────────俺とタカは、あっさりと病院おくりにされた。


< 394 / 431 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop