山神様にお願い
だけど、俺ってば天才だよ。マジで。だってすげー綺麗でうまいものがちゃちゃっと作れるんだぜ。
にやりと唇が持ち上がる。
一日に一回は自分で自分を褒めるのだ。だって考さんがそう言ってたんだ。まずは、自分が満足するように努力することだって。
音をたてて、ドアが開く。裏口の方を振り返った俺に、噂のトラ野郎がにっこりと笑いかけた。
「おはよー、リュウさん」
「おう」
山神の虎の出勤だった。
時は既に年末。30代に入ってから、一年が通りすぎる速さに拍車がかかったようだった。
12月の30日で、今年の山神最後の日だった。お客さんもほどほどに多く、日付の変わった12時過ぎにようやく最後の客が出て行き、皆で挨拶したところだった。
あ~・・・とダラダラした声が各所から聞こえる。
毎年年末年始は繁盛するので、バイトも含めて全員出勤だったのだ。ひたすら働いていたウマが座敷に腰かけたが最後、動けなくなってしまったらしく寝転んでしまった。
俺は汗でぐっしょりになったタオルを外しながら、とおりすがりにウマの足を蹴り飛ばす。
「邪魔だ邪魔ー。いい若者が寝転んでないで、最後まで働けよ、オラ」
「うううっ・・・龍さんちょっとだけ勘弁してください~。足がフラフラです~」