山神様にお願い


「よし、ではお疲れ様!今年一年頑張ったね~。かんぱーい」

 虎がそういって、かんぱーい!とジョッキをあげる。全員酒は飲める。ぐんぐんとジョッキをあけて、おっさんの集団みたいに「ぷああああー!!」と叫んでいた。おかしいな、レディーも2名はいるはずなんだが。

 冷たい炭酸が喉を駆け抜ける。その瞬間に、生きてて良かったと思うのは幸せな証拠なんだろうな。

 もう腕が重くて持ち上がらず、俺はカウンターに肘をついてぼーっと皆が話すのを聞いていた。

 仕事から解放されて明るくなったメンバーが楽しそうにしている。ウマ以外は一人暮らしだから、正月はそれぞれ実家に帰るのだろう。シカとツルがお互いの田舎の話で盛り上がっていた。

 隣から、ヒョイと虎がこっちを見て言った。

「龍さんは?」

「んあ?」

 振り返ると、いつもの大きな笑顔で、目を線のようにしながら虎がいた。こいつはこの柔らかい笑顔で客の防御壁をいとも簡単に壊してしまう。この優しげな外見の奥底に、まさしく牙をむき出しにした野獣が爪をたてているってことを知っている人間は、店のお客さんにはいない─────────はず。

「龍さんは帰るの、実家に?」

 俺はビールを飲みながら首を振る。

 ロクデナシ親父から解放された母親は今度はまともな男をみつけて再婚している。弟はそっちについていったけれど、俺はずっと家を出たままだった。

 一度しか行ったことがない母親の再婚相手の家にいったって、寛げるはずがない。母親は喜ぶかもしれないが、後のメンバー全員が困惑するのも確かだろうし、行くつもりなどサラサラなかった。

「ジムに入り浸りかなー。お前は帰るんだろ?」


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