山神様にお願い
虎が頷いた。
「まだ片付けも途中だしね~」
この秋に、虎は身内のような大切な人を亡くしている。その後始末がまだ残っていることは知っていた。だけどそのまま見ていたら、不機嫌な面をしてぼそっと呟く。
「・・・シカ坊もいないし」
───────ははあ!
俺はカウンター奥でツルと喋るシカを盗み見た。虎がシカを食っちまって、二人は目出度く恋人になったのだ。だけど、年末年始、シカは田舎へ帰るからとあっさりトラに告げたらしい。・・・膨れるなよ、いくつだお前は。
「捨てられたんだな、お前は」
「・・・龍さん」
「新年にお前が戻ってきたときにはシカ坊には新しい野郎がついてるってことか!」
「──────売られた喧嘩は買うよ、俺」
虎の声からひょうきんさが消えた。俺はつい爆笑したいのを頑張ってこらえる。
全く以外な組み合わせだったのだ。純粋で天然ですれたところのちっともないシカと、内面に荒れ狂う野獣を飼っている波乱万丈な人生を生きて来た虎が恋人になるとは!ってか虎が本気で誰かを好きになることがあるってことが、そもそも驚きだったんだけど。
お陰で俺は、毎日どっちかを弄っては喜んでいる。主にシカ坊、それから、たま~に虎も。で、今はこっちの番ってわけ。