山神様にお願い
果てしない暴力を体力の続く限りやる。それはゲン先輩の指示通りだったけど、最近は怪我が治る暇すらない。ちょっと参るぜってほどには、中学生にだって抗争はあった。
まったく、だるい話だよ・・・。俺は欠伸をして、空腹を忘れるためにビールを飲む。
学校は今日も休みだ。自分から行かない限り、いつまでも。
夕波虎太郎という名前を貰って生まれてきて、いつでも寂しいような怒ってばかりのような毎日だった、と思っていた。
小学生の頃に不仲の親が離婚して、社会復帰した母親は昼夜問わず働きに出た。
それはまだ幼い俺を人並に養うためでもあったし、別れた夫との生活の記憶を消すためでもあったのだろう。保険会社に就職して、その営業職員として働き出した母親は、虎太郎にかまう暇がなくなったのだ。
それまでは専業主婦でいつでも家にいた母親がいなくなった。父親もいなくなった。一人っ子の虎太郎は自分一人で足りないものを埋め、必要なものを得て過ごすことになったのだった。
しばらくは真面目に、留守番の一人っ子を黙々とやっていた。
あの頃の強烈な寂しさを、まだ覚えている。
母の友達である片山さんが俺達の世話を焼きにくるまで、俺は毎日、暗い家でじっと母親の帰りを待っていたのだ。
孤独に耐え切れないときには、外へ出た。一人でふらふらと、あてもなく彷徨って、大人に捕まって母親に知らされたくなかったから、人気のない森や山へとのぼっていった。
最初は圧倒的な暗闇に恐怖を抱いた。
だけどそのうちに心地よくなってきた緑の香り、動く優しい空気、虫や鳥がたてる音。