山神様にお願い
夜は怖いから、学校から帰った夕方前からいくようにした。するとちょっとした冒険の日々だったのだ。山へとくるハイカー達、いちゃいちゃするために登ってきた恋人達、近所の子供達とその親、彼らの会話を木の上や茂みの中から盗み聞いて、一人で笑ったり。怪しいおっさんのあとをつけて寝ているところの邪魔をしてみたり。
狸にあって追いかけたり、いのししを見つけて怯えたり。それから小さな植物の名前もたくさん覚えた。その時に母親にねだって買って貰った植物図鑑は、ボロボロになるまで読み返した。
いつしか山が、俺の家みたいになっていた。心地よくて寛げて、勉強になる場所だったのだ。山を駆け下りるたびに鍛えられた体が、他人よりも運動神経をよくしてくれたのだと思っている。
体はどんどん大きくなったし、筋肉もついてきて、孤独も感じなくなってきていた。
6年生になったある日小学校で、話の食い違いから喧嘩が起きた。相手は学年で一番体の大きいヤツで、喧嘩に強いことで有名なやつだった。
「おい夕波、お前覚悟しろよ」
普段一人でいて揉め事を起こさない俺は、弱い人間だと思われていたのだろう。相手は自信満々で、とりまいたクラスメイトの前で俺を倒すことを楽しみにしているようだった。
だけどせせら笑う相手を目の前にしても、俺はちっとも怖くなかったんだ。何だこいつ、そう思って、面倒くさいことをさっさと片付けようと足を蹴りだした。それが腹部に入って、当然相手は怒り狂った。