山神様にお願い
・トラの御多忙な休日2「極道の婚約者」
夕波虎太郎17歳。
俺は高校3年になって、外見だけで言うなら「ほぼまとも」になっていた。万引きをやめてアルバイトに精をだし、他校の生徒を半殺しにする変わりに植物達の世話をした。
家にある自分の部屋はまるで植物園だ。実は温室が欲しいと思っていたけれど、それは目を半眼にした母親に即却下された。
「大人になって自立したら、自分の家を買って好きにしたらいいでしょう」
そういって目の前に新聞を広げられてしまったのだ。
長らく悪い息子の母親をしていただけあって、母親の肝っ玉は確実にデカくなり、すわるようになっていたはずだ。目の前に新聞を広げられるというのは、紛れもない拒絶だった。「話、終わり!」の意味。昔、優しかった専業主婦時代の母親は見る影もない。それは生き馬の目をぬくといわれるほど殺伐とした保険業界で生き残ってきたからかもしれないけれど。
ま、俺のせいでもあるよね。
だから仕方ねーなーと諦めた。そして、休日には山へ行った。
その山で、ある時喧嘩が起きていたのだ。休日には家族連れで賑わう広い公園がある山すその方で、チンピラ同士が小競り合いをしていた。罵声をいくつか拾うとどうやら、ゴミ箱に投げた缶が目標を外れて飛び、もう一人のチンピラに当たってしまったようだった。
ばーかじゃーん。
口汚い罵りあいに威嚇の応酬。それを公園でやっているから、怯えた家族連れがどんどん逃げ帰っている。俺はそれを、へえ~と思いながらただ見ていた。ちょっと見ものだな、と思いつつ。