山神様にお願い
「コラ、俺ァ相模組のもんやぞ!それが判って喧嘩売ってんのか!!」
一人がそういって顎を突き出す。
ああ、極道モンか、あいつ。俺は簡単にそう思った。俺が住んでいる地域には昔からの香具師がいて、今は勢力は落ちたそうだけど「相模組」としてちゃんと存在している。どうやらそこの底辺あたりにいるチンピラだったらしい。はまり込んでいたヤンキー時代に、極道者は着ているものやその物言いでレベルを測る癖がついてしまっていた。
極道もんには係わるな。自分も極道ものだったゲンさんに、そう言われ続けていたせいもある。そういえばゲンさんが北海道へ飛んだのも、組の関係だったはずだ。
もう一人の方はヤンキー上がりのただの口の悪いオッサンだったようで、組の名前を聞いてちょっと勢いがそがれたか身を引いた。
それに気をよくしたチンピラがなおも言い募ろうと足を踏み出したとき、細いけれど凛とした女の声が響いた。
「ちょっと!こんなところで何してるの!」
そっちを見ると、若い女が一人。チンピラ共にスタスタと近づいていく。俺はちょっと驚いた。若い女が着ているのはうちの高校の制服だったからだ。
遠巻きに見ていた家族連れから心配そうな声があがる。いきなり女子高生がチンピラたちの喧嘩に割って入ったんだから、それは当然だろう。俺はその場で観察していただけだったけれど。
彼女は犬を連れていた。どうやら散歩にきていたらしい。俺は、あいつ休日なのに学校の制服着てら、それだけの感想を持った。
「んだ、ああ!?」
相手がヤクザもんと知って勢いを失っていた方が、女子高生を見ていきり立った。こっちには勝てると思ったらしい。だけどもう一方のヤクザものは、慌てたように姿勢を正したのだ。