山神様にお願い
私は内心、うぎゃー!と叫びながら今度は龍さんに言い訳する。
「いえ、あの、店長が閉めてって・・・」
わたわたとどもりながら説明する私を見て、店の奥で腕を組んでニヤニヤと笑っている店長。カウンターの中で腰に手をあてて包丁を握り、睨んでいる龍さん。
「俺が開けろって言ってんだよ!お前、俺のこの水も滴るいい男状態が見えないわけ?何ならどれだけ汗だくか、体で教えてやろうか?」
と汗で色の変わったTシャツ姿の自分を指差して、タレ目を細めている山神の龍。
「シ~カ~、判ってるよね?この場合どちらを優先するか、勿論理解しているとは思ってるけど」
と、今度は店中に聞こえる声で言い、思いっきり口角を上げて瞳を三日月型に煌かせている山神の虎。
・・・に、怯えて固まる鹿。
ど、どうすればいいのだっ!!私はパニックに襲われる。
「え?あ、う、ええと・・・」
すると、ツルさんがすたすたと近寄ってくる。そしてドアは少し、風が通るだけの隙間を開けて、また去っていくのだ。
通りすがりに「虎さん龍さん、いい加減にして下さいね」と言うのを忘れない。彼らはそれぞれが肩をすくめて仕事に戻る。そうか、両方の意見を取ればいいのか!ドアの前に残された私はそう気付いて全身の力を緩めるのだ。
こんな感じ。
龍さんは怒鳴るし際どいセクハラ発言が絡む。しかし、店長はやたらと柔らかくて優しい笑顔を浮かべたままで、ガッツリ脅迫するのだ。