山神様にお願い
手早く龍さんが後片付けをして、流しを綺麗にする。私もウマ君も荷物を持って入口のドアを戸締りした。
龍さんがボディバックを抱えて、2階の入口で叫んだ。
「虎ー!とーらー!!おら、帰んぞ!」
2階は無言だ。
私とウマ君は顔を見合わせた。
ムスッとした顔で、龍さんが2階を睨んだ。
「・・・だーめだ、こりゃ絶対寝てる」
「え、店長寝てるんですか?」
そりゃあいきなりですよね、ちょっと。私は驚いて大きな声をあげてしまった。
あの一面の緑の世界で、眠りこける山神の虎を想像してしまった。緑の匂い、水気と通る風、ボロボロの、やたらと落ち着く茶色のソファーにあの長い体を横たえて眠る夕波店長が瞼の裏側に浮かび上がる。・・・何となく、可愛らしい景色かも。そんなことを思って、その自分に気付いてハッとする。
「くそ、こうなると長いんだよな・・・」
あーあ、とため息を吐きながら龍さんが階段を上っていき、私とウマ君が階段下から覗き込んでいると、上の部屋、通称「森」から、夕波店長の間延びした悲鳴が聞こえてきた。
きゃーあ、そう聞こえる。
「・・・龍さん、遊んでますね、多分」
隣でウマ君が呟いた。私は頷く。多分ね、たーぶん、本当に店長が寝ていたのだとしたら、龍さんはきっと脇の下やら腰やらをこそばしたに違いない。