山神様にお願い
小泉君が口を開いた。淡々とした喋り方だった。感情がこもっておらず、そのせいで余計に私は怯える。
私は一歩近寄って、阪上君の服を少しだけ引っ張った。
「阪上君、いい加減にして。失礼なのは君よ。オープンキャンパスは終わりなんでしょ?もう帰って――――――」
「ひばりセンセーが、あんたの就活成就を願って神様にお祈りしてるって知ってる?」
一瞬、空気が止まった。
私は言いかけの言葉を見失う。風と太陽にまみれて、大学には似合わないリクルートスーツ姿の小泉君が霞んで見えた。
「センセーの新しいバイト先は居酒屋って知ってるよね?そこにある神棚みたいなものに、いつもお祈りしてるんだよ、あんたのこと」
「さ、阪上君、やめなさい」
この子にお祈りがバレたのは、私のミスだった。だけどこんなこと聞いて彼が喜ぶはずがない。私は焦って、また阪上君の服を引っ張る。
女の子みたいな整った顔をした彼は、厳しい視線に歪んだ口元で、小泉君だけをじっと見ていた。
「なのにあんたは電話もしないそうじゃないか。それで彼氏面?酷いことしてんだよ、判ってないみたいだけど」
「さか――――」
「自覚はある」
小泉君が低い声で遮った。私は手を阪上君の服から離して彼を見上げる。