山神様にお願い
急に現実が戻って来て、セミの鳴き声が頭の中に鳴り響きだした。私は後ろによろめいて下がる。
「・・・」
「へえ?自覚、あるんだ?だったら余計に最低じゃないか」
阪上君が、更に険悪な表情で噛み付いた。
「ずっとデートもしてないんでしょ?センセーは可哀想だったよ。我慢してるんだよ、彼女が。あんた、自分の彼女も大事に出来ないんだから、仕事探しなんて無理だよ。バランスが悪いんだよ、情けないと思わないの?」
止めなければ、そう思っていた。この失礼な男の子の発言を、止めなければ。だって小泉君は頑張っているんだもの。その辛さもしんどさも、私は判ってるんだもの。だから―――――――――
ああ、でも・・・・。
セミが、うるさい。
「お前に」
小泉君の低い声が聞こえた。
彼は阪上君を見下ろして、ハッキリと嫌悪感を顔に浮かべて言った。
「お前に何が判る」
そして口を空けっ放しにして固まるだけの私の方を向く。彼のネクタイは綺麗なブルーだった。その青に瞳が連れて行かれる。
「ひばり」
「は・・・・い」
掠れた声が出た。私の前まで歩いてきて、小泉君が言った。