山神様にお願い
「ねえ、センセー」
駅が見えた。私は歩調を速める。
「・・・エロい男は好きじゃないの」
声が掠れてひび割れた。自分でも嫌な声だと思った。
もうすぐ、日陰に入れる。もうすぐ、もうすぐ。
「・・・判ってないなあ」
阪上君の声が聞こえた。いつもと違う声色に引き摺られて、つい、足を緩めて彼へと視線を向ける。
少し後ろで止まっていた。すっきりとしたシルエットの男の子が、眩しそうに私を見ている。
「ひばりセンセー」
泣き笑いのような、微妙で繊細な表情を浮かべて、彼が言った。
「エロくない男なんて、いないんだよ。特に、好きな女にはね・・・」
私は顔を背ける。
阪上君の言葉は、入ってきた電車の音にかき消されてなくなった。