山神様にお願い


 店長が頷く。私は身を引いて、とられている腕をそっと外した。そして口元に笑みを浮かべた。

「確かにちょっとボーっとしてますよね。お皿、すみません。お給料から引いてくださいね」

 店長は若干目を細めた。

「そういうことじゃない。いつものシカじゃないって言ってるんだよ」

「すみません」

「いや、謝れってことじゃ・・・」

 店の入口付近の座席から、すみませーん!と呼ぶ声が聞こえた。私はパッと振り返って、はーい、いきまーす!と返事をする。

 店内を横切っている間、カウンターの中から龍さんが見ているのが判っていた。

 これ以上失敗しないようにしなくっちゃ。私はお腹に力をこめる。そして大きな笑顔を浮かべた。

 笑っていれば、幸せになれるらしいから―――――――――


 だけど、その日のお店は暇だった。

 だから皆手が空いていた。つまり、そんなに人数がいなくても店としては回ったのだ。そんなわけで、暇な店長に私は捕まってしまった。

「シカ、食事」

「はーい」

 賄いの順番が回ってきた、と思って、いつものようにカウンターの端で龍さんにお盆を受け取る。龍さんはいつもの笑みを浮かべて、ほらよ、とご飯をくれる。




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