山神様にお願い


「・・・洗濯してるの。大丈夫よ。実は、泣いてないのよ。多分判ってたんだと思うのね、自分でも」

 もうすぐ、別れかもって―――――――――――

 よし!と派手な決意の声が、ケータイから聞こえた。

『今晩予定ないなら、飲みにいくよ!泣けなくても笑えてもないんでしょ?』

 いや、笑ってたよ、昨日居酒屋で。そう思ったけど、とりあえず頷いておいた。空気はよまなきゃね、空気はね。ええ、ええ。

 なら、ひばりの最寄駅の前に、7時に集合ね~!!

 大きな声でそう叫んで、眞子は電話を切った。

 私は呆気にとられて切れた電話を見詰める。

 ・・・・いや、いくって言ってないけど?返事返事、せめて返事聞いてから切りなさいよ、眞子~!

「ちょっとお・・・」

 乾燥機が終ってぴーぴーと鳴った。丁度いいタイミングだったから、私は肩を竦めてテーブルから立ち上がる。

 もう、急なんだから・・・。そう思いながらも、胸のところがじんわりと温かくなるのを感じていた。

 鼻歌が出そうな心地よさで、洗濯物を籠に突っ込んでいく。

 駅前に、7時。

 ・・・・じゃあ、いそいで帰って着替えなきゃ。



 帰る足取りは、格段に軽くなっていた。



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