山神様にお願い


 で、龍さんは垂れ目を細めて笑顔をばら撒き、メニューにない洋食まで作って彼女達をもてなした。完璧に愛嬌ある板さん、に扮していて、普段の苛めっ子キャラは上手に隠している。

 私は唖然とした。そして、嘘はいけないと正直に彼の本性を暴こうとして、「皆、あのね・・・」と言いかけ、ツルさんに止められた。

 彼女が指す方向には包丁を握って微笑む龍さん。

「シカ、何が食べたい?馬刺しなんてどうだ?」

 そう言って笑う龍さんから遠く離れて、入口のところでウマ君が必死に両手をぶんぶん振り回していた。その顔には懇願、もしくは悶絶の二文字が似合っていた。だから仕方なく、私はウマ君に頷いて見せたのだ。

 龍さんは女子大生に微笑む。皆可愛いな~、俺、はきりっちゃおうっと、そう言って、華麗な包丁捌きをわざわざ見えるようにカウンターの上でしていた。

 ますますテンションのあがる女子大生たち(本性を知っていて、馬刺しにドン引きしている私は除く)。

 これ、やけ酒仕方ないよね~。結局全然失恋の話はしてないんだもん。ふてくされるのも、たまにはいいかもね、そう思って生中を追加したのだった。


 盛り上がる店長&龍さんと女友達3人を放っておいて、私はツルさんとウマ君としみじみと余ったおかずを片付けつつ話す。

「シカちゃん、可哀想だったのね。大丈夫なの?」

 ツルさんがそういってよしよしと頭を撫でてくれる。うわーん、優しい~!


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