山神様にお願い


 ・・・・海。いつそんな話になったの?私、本当にはいとか言った?

「あのー・・・私、家庭教師のバイトが・・・」

 一応言ってみたけど、自分でも阪上家には行きたくないと思ってることが判っていた。

 だけど、仕事は仕事だし。そう思って言ったのだ。

 でもそれもアッサリと口元に笑みを浮かべた店長に一蹴された。

「高校生だっけ?もう夏休みなのに、何でカテキョがいるんだ?休み、もらえよ。給料なしになるけど、海での金はシカは払わなくていいからさ」

「そうそう。生徒にも休みをあげな。あまりガタガタ言うと、俺が今日シカをお持ち帰りしちゃうぞ~」

「・・・結構です」

 壁に全体重を預けながらそういう私の隣で、眞子が無責任にもこう叫ぶ。

「きゃーっ!!それいいよお龍さん!いっちゃってくださーい!ひばりお持ち帰り~!」

 千里と雪も拍手する。

 くそ、酔っ払いめ。私は何とか手を動かして、メニューで彼女の頭を叩いた。


 そんなわけで、真夏の月曜日。正しい社会人の皆さんは額に汗して働いている日、居酒屋「山神」のメンバーは、全員で海へ遊びにいくことになって、その夜は解散になった。

 ・・・何故、こうなったのだろうか。

 皆を駅まで送った帰り道、私は夜風に吹かれながら歩く。

 でも家に着く頃には、ちょっと笑っていた。

 ふふって。声まで漏らして。

 水着、探さなきゃ。



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