山神様にお願い
恐る恐るそう聞いてみる。やつめ、まさか、ひばりセンセーを襲おうと思って失敗したんだ~なんて言ってないでしょうね。
有り得そうで、一瞬で冷や汗が出る。すると電話の向こうのお母さんは、ちょっと柔らかい声に戻って言う。
『八雲がね、ぽつんと言ってましたので。ひばり先生はもう来ないかもしれないよって。それで、またうちの子が先生に何か失礼なことをしたのじゃないかって・・・。本当に、いつもすみません』
「い――――――いえいえいえ、ええと、大丈夫です。そんなことありませんから!あの、ええ、私は対処してますし、阪上君も悪気がないことは判ってますので。今日は・・・そのー、もう一つのアルバイト先で、必要とされていて、あの、こちらが休めるようならーと思っただけで・・・」
私は慌ててしまってベラベラ喋る。阪上君に会うのは気まずかった。だけど、あの子が私を想ってした行動であるとは理解していた。だから親御さんに心配かけたりするのは不本意なのだ。
電話の向こうでお母さんは笑う。ああ、それなら良かったです、と。
私はまたすみませんと謝って、電話を切る。
・・・・ああ、疲れた。部屋の中で無駄に汗をかいて、固まってしまった肩をほぐす。
ぽつんと、とお母さんが言っていた阪上君の姿を想像して少しばかり胸が痛んだ。
駅前の、太陽を浴びた彼の微妙な笑顔を思い出す。泣き笑いのような、あの顔を。
ごめんね、阪上君。だけど君との対決をするには、私にはまだエネルギーが足りないの。
とりあえず、今は、今は・・・。
今日は―――――――――獣達と、海だ。