山神様にお願い


 車の中で、龍さんは長い足をどかーっと広げて早速缶ビールを飲み始めるし、ツルさんとウマ君はビーチボールを膨らませて打ち合っている。何て人たちだ!

「龍さん、飲んだら運転代われないでしょ」

 運転席から店長がそう苦情を言うと、龍さんはにやりと笑った。

「判ってるから、早速飲んだんだろ~」

 確信犯だ。性質が悪い。

 龍さんは私を振り返って、ビール缶を振りながら言った。

「今俺に対してよくないこと考えただろう。いいのか、シカ?俺は今日わざわざ早起きして、君たちのためにスペシャルランチを用意してやったんだぞ!」

「え?」

 私が目を見張ると、ウマ君が頷いた。

「そうなんですよ~!山神でどっか行くときは、龍さんが必ずすんげー弁当を用意してくれるんです!シカさん期待していいっすよ!」

「本当に美味しいし、ゴージャスよ~」

 バイト二人の意見にうんうんと頷いて、龍さんは機嫌よくビールを煽る。

 今日の龍さんは海パンとジップアップパーカーで、パーカーの前を全開にして、割と綺麗に筋肉のついた裸をこれ見よがしに晒している。整えてない茶髪の肩までの髪を無造作にくくっていて、この姿だけみたら、この人の職業が料理人だとは絶対思わないって格好だ。大体、板前で筋肉ついてるっておかしくない?私は飛んでくるビーチボールを頭を下げて避けながら、そんなことを思っていた。


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