山神様にお願い


 砂浜の階段下に、巨大なビニールシートを広げながら私が言うと、ツルさんが、ああ、と反応した。

「龍さんは趣味でボクシングしてるのよ。だから体は鍛えてるわね~」

「ええっ!?」

 私はつい手を止めてツルさんを見上げる。彼女はパラソルを組み立てながら、そのままで喋った。

「ボクシングも料理も好きで、本当は料理が趣味だったらしいけど、そっちで金を稼ぐほうが楽だったらしいわ」

 ・・・へえ~・・・。まあ、それはそうかもね。私は黙って考える。スポーツでお金を稼ぐのは、大変だろう。練習や努力だけでは物事が動かない世界だろうし。

「よく知ってますね~。さすが、オープンからいらした古参バイト!」

 私が拍手をしてふざけると、ツルさんがにやりと笑った。

「うーん、この反応ではまだシカちゃんは聞いてないのね。よし、驚かせよう!実は私、龍さんとしばらくつきあっていたの」

 ――――――――え。

「ええええええええ~っ!!!!」

 絶叫してしまった。ハッとして見回したけど、こんなに解放感溢れるところで多少叫んだって何の問題もないって気がついた。

 首が折れそうな勢いでツルさんを振り返る。

 このスレンダーラブリー完璧アルバイターが、あの板前の元カノだとーっ!!?


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