Magician
―――放課後。
「今宵、お客様に、夢の時間をお見せしましょう」
自信満々にステージに立つ少年。
ダークブルーの髪の毛に、妖しい漆黒の衣装を身に纏う。
可愛らしい童顔はどこへいったのか、エリクの幼い面立ちは影を見せず、大人びた魅力でまずは女性の心を惹きつけたようだ。
どこからともなく浮かび上がる、清く澄んだ水滴が、涼やかな冷たさを運んでくる。
と、思うのも束の間、その水滴の先に見えた幻想的な空間が背景を染め上げ、いつしか瞳には、神秘的な自然の空間が写り、自分と同じように歓声を上げるものがいる。
マジシャン、とはよく言う。
だが、魔術師、魔法使いとはまた違う。
「これが、受け継がれた稀代の…」
常連の客が、ポツリと口から漏らす。
仕事の疲れも、怒りや悲しみの負の感情も、この幻想が嘘かのように、吸い込んでいく。
治療などの癒しではない、癒しの力。
いつしか時間の流れを忘れ、ただただ、その世界に身を置いていた者達は、夢から覚めるように、ふと気付けば現実の酒場へと、引き戻されていた。
「いかがでしたでしょうか…。今宵の夢は。
求めるならば、また明日。同じ時間にまた、ご案内いたしましょう」
胸に手を当て一礼すると、エリクはまだ夢でも見ているかのように、ステージの光が消えると同時に、闇に溶けるように姿を消した。
驚愕とその姿に眼を奪われていた者達は、我に帰るとエリクに惜しみない拍手を送るのであった。