花のように


「いらっしゃいませー」


 カランコロンと店内に軽やかなドアベルの音が鳴り響く。入り口のドアを開け店内に入ると、マスターの奥さんの真由美さんに声をかけられた。


「あら、今日は佳奈ちゃん一人?」

「真由美さん、こんにちはー。はい、今日は私だけ。やっとお休み取れたんで、リフレッシュしに来ました」


 やっぱり好き、この香り。

 今日はどの本にしようかな。


 本を愛してやまない私は、店内に微かに香る紙の匂いを嗅ぐだけで、期待に胸が高鳴ってしまう。


「佳奈ちゃんはブレンドでよかったのよね? お好きな席へどうぞ」

「ありがとうございます」


 私は、彼と一緒のときにいつも座る窓際の席に腰かけた。


 つい先日までは閉じられていた窓が、今日は開け放たれている。


 芽吹き始めた草木の香りを孕む爽やかな春の風が、ライブラリーの中を駆け抜けた。



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