花のように
「すみません、この本を探しているのですが」
カウンター越しにこちらを覗いているのは、あの絵画の彼だった。
いつもと違う距離の近さに、軽い目眩を覚える。内心の動揺を彼に悟られまいと、私は掛けている眼鏡のブリッジを一度軽く持ち上げた。
「ああ、これはたぶん地下書庫に置いてある本ですね」
彼から本の名前が書かれたメモを受け取り、端末を操作する。
「今、三件貸出予約が入っていますね。どうします? 予約なさいますか?」
「えっ……と、それじゃあ予約お願いします」
彼は斜め掛けの鞄から財布を取り出すと、カード型の学生証を差し出した。
『社会福祉学部社会福祉学科三年 河上知哉』
それが、彼の名前だった。