俺ら参上ッッ!!


「ん…ひか、り…??
ひかり!!」

「ひゃっ!
こ、恋一!?」


恋一はガバッと起きて私に抱きついた。
でもいつもと違う。


「良かった…良かった…」


少し恋一は震えていた。
あまりにも弱い力だった。
何かあったんだろうと思って、私は抱きしめ返した。


「恋一…私はここにいるよ…」

「うん…うん…
良かっ…た…」


子供みたいにすすり泣く恋一は、今まで見たことがないくらい辛そうだった。


「離れて行くな…ひかり…
オレが…悪いんだ」

「……」


恋一の言っている意味がよくわからなかった。

何が悪いの…??


「恋一、ひかりがすごくお前のこと心配してだぞ」

「そうだよ、恋一っ
ひかりにちゃんと話すことあるでしょ?」

「玖白…美沙…」


少し赤い目で二人を見る恋一。


「わかった…話す」

「それじゃあ俺達は授業に戻る
…ゆっくり話せ」

「それじゃあね」


静かに二人は保健室を出て行った。
二人が出て行ってからは、恋一の抱きしめる力が強くなった。


「恋一どうしたの…??」

「オレ、さっき悪夢見てて…
ひかりが離れて行くんだ。
近くにいるのに手届かなくて…」


すがるように泣きつく恋一。
私はそっと頭を撫でた。


「オレはお前を離したくない…
そう思ったら目が覚めて、ひかりがいたからおもいっきり抱きついちまった…」

「私は恋一の側にずっといる…
だから泣かないで…」


私の服を握る力が強くなる。
私まで胸が痛くなった。
さっきまで少しでも恋一を諦めようとした自分がバカみたいだ。


「……玖白からどこまで聞いた?」


少し冷静になった恋一は私にそう聞いた。


「詳しくではないけど…
大まかには聞いたかな…」

「そっか…」


ベットにまた恋一は寝転がった。
ふぅと一息つくと、ゆっくり話し始めた。


「オレさ…女のこと本気で好きになったことねーんだ
莉子も含め…」

「…え?」

「中学二年の時から人の温もりだけが欲しくて、いろんな女を誘ってた」


人の温もり…

黙って恋一の次の言葉を待つ。


「オレ、家族いねーんだ
父さんはオレが中学一年の冬に車で事故死、母さんは父さんの後を追うように…自殺した」

「……!」


自殺…?

恋一の瞳は少し曇っていた。
あの時私に「過去を知ったらさらに好きになった」って言ってくれたのは…私と恋一が似てたからだと思う。


「オレ一人っ子だったから大好きだったんだ、父さんと母さんのこと。
すごく温かい温もりがたまらなく好きで…」


自然と私の目には涙が溜まる。


「それがなくなって…いろんな女渡り歩いてた時に、莉子と出会ったんだ」

「……うん」

「莉子は他の女と違ってすごくオレを愛してくれた…心の底から」


……なんだか胸が痛い。

ズキズキ痛む胸を押さえた。

恋一を受け入れなくちゃ…
絶対…逃げちゃダメ。


「そんな莉子にオレはすがった。
…好きでもないのに」

「……」

「オレほんとバカだ。
莉子を自分勝手に傷つけた…」


眉間にシワを寄せて語る恋一に、私は罪悪感を覚えていた。

例え恋一が好きじゃなくたって…
莉子ちゃんが好きなら…


「その上、別れを勝手に切り出して…
嫌って言われても聞かなくて。
だけどオレは、こんなヤツと付き合うより他の男を探して欲しかった…ただそれだけだった」


痛いくらい恋一の気持ちだってわかるけど…
でも…


「…そうだとしたなら…
莉子ちゃんにちゃんと伝えるべきだよ恋一」

「え…??」

「莉子ちゃんは本気で恋一を好きで…
恋一に好きになってもらうために努力して…」


あはは、私何言ってるんだろ…

ひどくさっきより胸が痛む。
息苦しくなってくるくらい。


「ひかり…お前何言って…」

「ごめんなさい…
私帰る…」

「おい、ひかり!」


私は涙を堪えて保健室を飛び出した。
保健室を出て玄関に来た途端に涙が溢れた。

私恋一が好きなのに…なんてこと言っちゃったんだろう…!!

涙がぼろぼろでる。
その時だった。


「…ひかりちゃん、優しいんだね」

「へ…??」




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