千両×無限
この町の中央には大きな屋敷がある。
そこは永久をはじめとする橋並家の住まいであり、また、町の役所も兼ねている場所だ。
そこに、永久と卓馬はいた。
先ほどまで降っていた雨はすっかり止み、嘘のように晴れ渡っている。
かすかに残る雨の匂いと春風の匂いが混ざり合い、二人の鼻をくすぐった。
大広間へ続く廊下を歩いていると、前方から少年が駆け寄ってきた。
「兄上!」
「永茂(ながしげ)か、ただいま」
卓馬が一礼をすると永茂もつられて礼をする。
永茂は永久の弟であり、また、彼も同じく後継ぎの候補者の一人だ。
橋並家では後継ぎを争い、永久派と永茂派に分かれている。
しかし、今のところ目立った争いはなく、実際はどちらとも宜永の決定に従うと言ったところだろう。
「今日も町に足を運ばれたのですか?」
「あぁ、なかなか面白い家族に会った」
永久の言葉に永茂の顔が輝いた。
彼もまた、永久と同じように町へ行きたいのだろうか。
卓馬に促され永久は永茂と共に、大広間にいるであろう宜永の元へ向かった。
相変わらず、大広間は静まり返っている。
「父上、ただいま戻りました」
「永久と卓馬か、ご苦労。して、町の様子はどうであった?」
永久は今日見てきた町の様子を事細かに話し始めた。
永久が町へ繰り出すのは、何も趣味だからというわけではない。
勿論その面もあるのだが、実際は町の様子を見て異変がないかどうかを調べるのが目的である。
「あの、父上」
報告が全て終わったあと、永久はそう切り出した。
「どうした?」
「先程ご報告した家族の店に今夜赴きたいのですが、屋敷を空けても構いませんか?」
宜永と卓馬は眉を寄せた。
永久は実質後を継ぐ者であり、命が狙われやすい夜の外出は避けて欲しいところだ。
恨みを持つ者が全くいないとは考えられない。
いくら泰平の世が続いてるとはいえ、命の危険が無いわけではないのだ。
しかし、だ。
「どうせ言っても聞かぬのだろう?」
宜永が困ったように笑うと、永久もつられるように笑みをこぼした。
昔からそうだ。
永久は一度やると決めたら成し遂げるまで自ら折れることはない。
それは宜永が一番わかっているはずだ。
「卓馬、護衛につけ。万が一何か起きたなら、すぐに戻ってくるのだぞ」
「はっ」
夜の町は何年ぶりだろうか。
永久の胸は、密かに高鳴っていた。
夜になった。
風が身体を撫でて少し肌寒い。
店の灯りがぽつぽつと灯っていて、少しばかり幻想的な雰囲気である。
「若殿様、ご油断なされぬよう」
卓馬が警戒心を露にしているせいなのか、敵の気配は全くと言っていい程感じられない。
卓馬も宜永も少しばかり過保護ではないかと、永久は笑った。
夜道は静かだった。
店の中から男の声が時々聞こえるだけで、それ以外はなんの音もない。
永久にとって、それが少しばかりさみしく感じた。
「若殿様」
不意に、卓馬の緊張した声が耳に入る。
「この先は最近になって賊が多く出現しておりますゆえ、迂回されるのが安全かと」
「そうであったか…卓馬、礼を言うぞ」
卓馬の先導で永久は裏路地に入った。
不思議だ。
卓馬が案内している道だから安全であるはずなのに、刀から手が離せない。
冷や汗が止まらない。
あちらこちらから妙な目線を感じる。
全身を舐めまわされるような、決して気持ちがいいとは言えない目線だ。
「卓馬」
永久が声を掛けるも卓馬の返事はない。
返事がないばかりか、人気のないところへ向かっているような気がする。
「卓馬、返事をせぬか」
僅かながら声に震えが帯びてきた。
卓馬が別人のように見えてどうしようもなく怖い。
「おい、卓ー…」
永久が怒鳴り声をあげようとした時、腹に強い衝撃が走った。
何が起きたか分からなくて、頭が真っ白になる。
永久はおそるおそる衝撃を与えたものに触れた。
それはまぎれもなく、卓馬の拳そのものだった。
「卓馬…ッ謀ったな…!」
「若殿様が陰間茶屋なんかに行こうとするからですよ」
卓馬の拳が永久の頬を捉えた。
抵抗する間もなく永久は地面に叩きつけられ、それを待ち構えていたように男が永久を囲う。
刀はいつのまにか卓馬の手元にあり、抵抗などしても無駄だということはすぐに分かった。
「ヤれ」
卓馬の一言で男達は一斉に永久に手を伸ばした。
永久の抵抗を物ともせず、男達は永久を抑えつける。
少しでも可能性にかけたかったのだろうか。
永久は卓馬の方に目線を向けた。
「みっともないですね…自由を奪われているというのに、そんな欲情した目を向けるなんて」
卓馬の薄気味悪い笑いが永久の心を抉る。
もう自分の声は卓馬には届かないのだと認めざるを得なかった。
男の手が永久の袴を解く。
嫌な予感がした。
その予感を的中させるように、男達は次々と身包みを剥がしていく。
何故こんなことをされているのか理解ができなかった。
卓馬に変わった様子は無かったはずだ。
永久が何かをした覚えもない。
卓馬の賊を見下すような目線が、たまらなく辛かった。
「若殿様よぉ、よそ見してんじゃねぇよ?」
「やめ…っ、…ぁ…ッ!」
男が永久のソレに触れた瞬間、永久の身体に快楽が駆け上がった。
同時に出た自分とは思えない声に、永久はたまらず顔を赤くする。
別の男がぷっくりと浮き出た桃色の突起を吸い上げた。
わずかな痛みと擽ったさしか感じなかったその行為も、だんだんと快楽を帯びてくるようになる。
そこは永久をはじめとする橋並家の住まいであり、また、町の役所も兼ねている場所だ。
そこに、永久と卓馬はいた。
先ほどまで降っていた雨はすっかり止み、嘘のように晴れ渡っている。
かすかに残る雨の匂いと春風の匂いが混ざり合い、二人の鼻をくすぐった。
大広間へ続く廊下を歩いていると、前方から少年が駆け寄ってきた。
「兄上!」
「永茂(ながしげ)か、ただいま」
卓馬が一礼をすると永茂もつられて礼をする。
永茂は永久の弟であり、また、彼も同じく後継ぎの候補者の一人だ。
橋並家では後継ぎを争い、永久派と永茂派に分かれている。
しかし、今のところ目立った争いはなく、実際はどちらとも宜永の決定に従うと言ったところだろう。
「今日も町に足を運ばれたのですか?」
「あぁ、なかなか面白い家族に会った」
永久の言葉に永茂の顔が輝いた。
彼もまた、永久と同じように町へ行きたいのだろうか。
卓馬に促され永久は永茂と共に、大広間にいるであろう宜永の元へ向かった。
相変わらず、大広間は静まり返っている。
「父上、ただいま戻りました」
「永久と卓馬か、ご苦労。して、町の様子はどうであった?」
永久は今日見てきた町の様子を事細かに話し始めた。
永久が町へ繰り出すのは、何も趣味だからというわけではない。
勿論その面もあるのだが、実際は町の様子を見て異変がないかどうかを調べるのが目的である。
「あの、父上」
報告が全て終わったあと、永久はそう切り出した。
「どうした?」
「先程ご報告した家族の店に今夜赴きたいのですが、屋敷を空けても構いませんか?」
宜永と卓馬は眉を寄せた。
永久は実質後を継ぐ者であり、命が狙われやすい夜の外出は避けて欲しいところだ。
恨みを持つ者が全くいないとは考えられない。
いくら泰平の世が続いてるとはいえ、命の危険が無いわけではないのだ。
しかし、だ。
「どうせ言っても聞かぬのだろう?」
宜永が困ったように笑うと、永久もつられるように笑みをこぼした。
昔からそうだ。
永久は一度やると決めたら成し遂げるまで自ら折れることはない。
それは宜永が一番わかっているはずだ。
「卓馬、護衛につけ。万が一何か起きたなら、すぐに戻ってくるのだぞ」
「はっ」
夜の町は何年ぶりだろうか。
永久の胸は、密かに高鳴っていた。
夜になった。
風が身体を撫でて少し肌寒い。
店の灯りがぽつぽつと灯っていて、少しばかり幻想的な雰囲気である。
「若殿様、ご油断なされぬよう」
卓馬が警戒心を露にしているせいなのか、敵の気配は全くと言っていい程感じられない。
卓馬も宜永も少しばかり過保護ではないかと、永久は笑った。
夜道は静かだった。
店の中から男の声が時々聞こえるだけで、それ以外はなんの音もない。
永久にとって、それが少しばかりさみしく感じた。
「若殿様」
不意に、卓馬の緊張した声が耳に入る。
「この先は最近になって賊が多く出現しておりますゆえ、迂回されるのが安全かと」
「そうであったか…卓馬、礼を言うぞ」
卓馬の先導で永久は裏路地に入った。
不思議だ。
卓馬が案内している道だから安全であるはずなのに、刀から手が離せない。
冷や汗が止まらない。
あちらこちらから妙な目線を感じる。
全身を舐めまわされるような、決して気持ちがいいとは言えない目線だ。
「卓馬」
永久が声を掛けるも卓馬の返事はない。
返事がないばかりか、人気のないところへ向かっているような気がする。
「卓馬、返事をせぬか」
僅かながら声に震えが帯びてきた。
卓馬が別人のように見えてどうしようもなく怖い。
「おい、卓ー…」
永久が怒鳴り声をあげようとした時、腹に強い衝撃が走った。
何が起きたか分からなくて、頭が真っ白になる。
永久はおそるおそる衝撃を与えたものに触れた。
それはまぎれもなく、卓馬の拳そのものだった。
「卓馬…ッ謀ったな…!」
「若殿様が陰間茶屋なんかに行こうとするからですよ」
卓馬の拳が永久の頬を捉えた。
抵抗する間もなく永久は地面に叩きつけられ、それを待ち構えていたように男が永久を囲う。
刀はいつのまにか卓馬の手元にあり、抵抗などしても無駄だということはすぐに分かった。
「ヤれ」
卓馬の一言で男達は一斉に永久に手を伸ばした。
永久の抵抗を物ともせず、男達は永久を抑えつける。
少しでも可能性にかけたかったのだろうか。
永久は卓馬の方に目線を向けた。
「みっともないですね…自由を奪われているというのに、そんな欲情した目を向けるなんて」
卓馬の薄気味悪い笑いが永久の心を抉る。
もう自分の声は卓馬には届かないのだと認めざるを得なかった。
男の手が永久の袴を解く。
嫌な予感がした。
その予感を的中させるように、男達は次々と身包みを剥がしていく。
何故こんなことをされているのか理解ができなかった。
卓馬に変わった様子は無かったはずだ。
永久が何かをした覚えもない。
卓馬の賊を見下すような目線が、たまらなく辛かった。
「若殿様よぉ、よそ見してんじゃねぇよ?」
「やめ…っ、…ぁ…ッ!」
男が永久のソレに触れた瞬間、永久の身体に快楽が駆け上がった。
同時に出た自分とは思えない声に、永久はたまらず顔を赤くする。
別の男がぷっくりと浮き出た桃色の突起を吸い上げた。
わずかな痛みと擽ったさしか感じなかったその行為も、だんだんと快楽を帯びてくるようになる。