あの日もアサガオが咲いていた。




新しい生徒を迎えて二ヶ月と少し。

新入生もこの学校に馴染んできた季節である。


そしてこの生徒指導室での大会議は毎年この時期の恒例行事なのだ。




「いよいよきましたね…!」




今からこの紙の山と睨めっこを始めなければならないというのにも関わらず、聞こえてきたのはどこか嬉しそうに弾む若い男の声だった。

それほど大きくなかったはずのそれは、静かな部屋によく響いて。


その言葉に周りの大人たちは様々な表情を浮かべる。


同じように顔を緩めるものや、困ったように眉を下げるもの。

嫌そうに顔を歪める人や、呆れたように溜め息を吐く人。


まさに十人十色である。


その表情の意味を、若い男はまだ知らない。




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