あの日もアサガオが咲いていた。
「よーちゃん、よーちゃん」
目に見えて興奮した様子の陽太をどうにか落ち着かせようと、柚子は何とか伸ばした手で陽太の腕をパシパシと叩く。
どうか気付いてくれと願いながら。
そうでもしないと柚子の方が目を回してしまいそうだ。
そうなれば本題どころではない。
そんな柚子の思いが届いたのか、小さく叩かれた腕に気付きはっと我に返る陽太。
直ぐ様ごめんと謝ると、慌てたように柚子の肩から手を離す。
そんな陽太に柚子は大丈夫だと可笑しそうに笑った。
こんなにも周りが見えなくなる陽太は珍しい。
よほど良いことがあったのだろう。
そう感じた柚子は無造作に落ちた本を拾い上げ机の端に置くと、姿勢を正して陽太に向き直った。