あの日もアサガオが咲いていた。
質の良さそうな黒い髪と、それに合わせたシンプルな黒のスーツ。
お洒落に生やされた無精髭は何故か彼を年齢よりも幾分若く見せている。
独特の甘く響くその声は、どこか役を演じる職を思わせた。
隣から"龍野(タツノ)先生"と小さく呼ぶ佐藤の声が聞こえたところを見ると、どうやらそれが彼の名前らしい。
困ったような顔をしている佐藤の奥には、じっとりとした目で龍野を睨み付けている新垣の姿。
そんなことなど気にも留めず、龍野は変わらずの表情で書類を眺めている。
彼が気だるげに放った言葉に、ざわざわと辺りが騒めき始めた。
あっという間に広がっていくその波紋。
そんな光景に龍野はそっと目を閉じる。
まるでその小さな喧騒を咎め、嘲笑うように。