二重人格神様~金と碧の王~


(その手を掴め、踏み出せ。分かっている。いのりと同じような言葉をいいやがって…)


(それが出来たら、苦労はしない)

(出来ない理由は、なんとなくわかっているんだ。俺は影、たとえその手を取っても、表ではない。あいつは海鈴のもので…俺のじゃない…どんなに近づこうが…俺のじゃ…)


ふと、脳裏にいのりの姿が浮かぶ。


触れた時の、体温。名前を呼ぶ声、綺麗な瞳。そして、あの胸の鼓動と…


『1人じゃない』『私は味方だよ』


「……いのり」


(何を考えているんだ。無性に、あいつの声が聴きたい。追い出したくせに…あの温もりが欲しくてたまらない)


『いいかい?グレン様?いつか、グレン様が欲しいと思った温もりがあったのなら、どんな手段を使っても手にいれるのだ』


『どんな、手段でも?』


『そうじゃ。手を伸ばし、それを掴むのだ。その手はグレン様の味方じゃ。怖がるでないぞ。たとえ海鈴様の影でもそれがあれば、強くなれる。それが…温もりであり…』


「愛…で、ある」


(…いのり…)


その時、何かが切れた音がした。唇を噛みしめ大きく息を飲み込むとグレンは立ち上がった。そのまま急いで、グレンは執務室を後にした。



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