二重人格神様~金と碧の王~

『そ、そうだけど…でも、でも…』

『その人はね、私の仕事仲間だったんだ。頼りになるし、寂しい気持ちを埋めてくれる。彼女の事を愛していたけれど、私はいのりの母親と出会ってしまった。今思えば…どこかで間違ったのかもしれない』


『それって、お母さんの事…最初から愛してなかったって事?』


『…いのりがいたから、彼女を愛するように頑張ったんだ』


そんな…


悔しいと言うより、悲しさが溢れてくる。どう、して…お父さんはそんな事を言うの?


『嘘だよ…』


『真実だよ?だから、会って欲しい』


そんな事…信じない。お父さんが、そんな事言うなんて、嘘に決まっている。信じない。


絶対に、そんなこと…

『信じない!!』


ガタンと椅子から立ち上がり、私はリビングを飛び出した。


乱暴に玄関のドアをあけ、裸足のまま飛び出す。


小石やチリが足に突き刺さるが痛みなんて、感じなかった。


ただ、私は走った。零れ落ちる涙を拭い、向かったのは龍神様の場所。


それなのに…


『そんな…』

そこには、なにも無かった。川が規則正しい音をたて流れ、水面には月が反射して光を帯びている。


.
< 424 / 513 >

この作品をシェア

pagetop