二重人格神様~金と碧の王~
どうして、あの時、自分をかばったんだ。なぜ、気づいて守ることが出来なかったんだろうか。
後悔など、してもしきれない。
グレンはいつの間にか、こんなにもいのりを愛していた事を実感した。
ベッドに残る、彼女の甘い香り。「グレンさん」と呼ぶ声、笑った顔や怒った顔、泣いた顔。
脳裏に浮かぶその存在にグレンの瞳からはまた涙がこぼれる。
乱暴に服で拭い、そのまま枕に顔を埋めた。
泣いているだなんて、グレンは自分でも信じられない。幼い頃に沢山泣いて、疲れて、長い間涙を流すことなんてなかったからだ。
そうさせているのも、いのり。いのりは沢山のものをくれた。冷たく、傷つけた自分と馬鹿みたいに歩み寄ってくる。
その暖かさに、いつの間にかひかれ、海鈴と同じように愛するようになった。
以前、グレンはいのりに言った。
「海鈴がすきな者は俺も好き」だと。それはあながち、間違いではない。
だが、そういう感情は幼き頃から海鈴とは切り離されていた。だから、海鈴がすきだから…そんなのは、羞恥心を隠すためのいいわけ。
(俺は、俺自身でいのりを好きになった。だから、守りたかったんだ)
ベッドから起き上がり、グレンは月をあおぐ。
シャカの世界はとても遠い…いや、この世界とは違う次元にある。入口までなら行けるが、その先に行くのは許可がいる。
(約束を果たせなかった俺が、その許可をもらえるわけがない)