二重人格神様~金と碧の王~
「今、考えると…本当にいのりに出合えてよかったと思うよ。誤解から助けるはめになった君を連れてきたけれど…こんなにも、大切な存在になるだなんて、思ってもいなかったから」

ちゅっと、頬に掠めるようなキスを落す。その行動に、身体の温度が上がっておくのがわかった。

「か、海鈴さん…ど、どうしたんですか…こんな時に」

「こんな時だからだよ。たまにはいいじゃないか…ずっと、いのりに触れていなかったし、こう…腕で抱きしめたら、言わずにはいられなくなってしまったんだ」

「あ…う、は、はい…」

「色々なことがあったね、この半年近くで」

「は、はい…」

うん。たくさん、色々なことがあった…でも、私はそのほとんどをはっきりとは覚えていない。記憶も途切れ途切れで、言われれば…そんな事もあったかもって…思うだけ。

体調が悪くなった原因は、私が神であるお父さんの娘で…力が開放されたから…それは理解できたけど…あぁ、そうなんだ…って、思うことしか出来ない状態。

だけど、海鈴さんのことを強く思っているのは事実。それだけは、きちんと分かる。だからなのか…大切などといわれると、一緒に過ごした時間を思いだせない事実が、とても心が苦しい。



「あの、海鈴さん…色々と、思いだせないことが多くて…ごめんなさい」

「なんで謝るんだい?思いだせなくても、僕はいいと思っている。いのりが、僕と同じくらい、僕を思ってくれるのなら、満足だよ」

「…は…は、い…」

「だから、思いだそうとか、しなくていいんだ。思いだせることは、時間が解決してくれるのを待てばいい。仮に思い出せなくても、また…新しい想い出を僕と作っていこう?」

そう言うと、海鈴さんは私の身体を少し離し、そのまま向いあうように座る。


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