二重人格神様~金と碧の王~
「それとも、僕のことが嫌いかい?」
「そ、そんなことありません。記憶がなくても、私は海鈴さんが大好きです」
海鈴さんの首に手を回し、抱きつくと、そのまま力強く抱きしめられた。
「それは、僕も同じ気持ちだよ」
「…はい…」
「ねぇ、いのり?」
「はい?」
「彼のことは…思いだせないのかな?」
「え?」
かれ?突然放たれた言葉に、彼の顔を小刻みに瞬きを繰り返しながらみた。
「えっと…か、かれ?」
「うん」
「えっと、か、かれ…って…なんのことですか?」
そういうと、海鈴さんは少し表情を暗くし、視線を落とした。
「いや、ごめん。そうか…やっぱり、ダメか…いや、そうだよね。そういう契約をしたんだから」
呟かれた言葉がわからない。なにか、思いあたることもない。なのに、なんでこんなにも胸が痛むんだろう。
「あの…彼って?誰のことですか?」
「気にしないくていい。ごめん、今のは忘れて」
笑顔を向ける海鈴さん。少し作ったような笑顔に私は呟いた。
「そんな…気になりますよ。教えてください。それも、私が忘れていること…なんですよね?」
「…大した事じゃないよ。その…いのりは僕が言う彼には会ったことはない。ただ…遠い昔の話をしただけ」
「…昔、話し?」
「うん…僕にはね、グレンの他にも兄弟がいたんだ」