[完]バスケ王子に恋をして。
「……ただいま……」

私の消えるような声は家の中にすっと消えてった。

でも……

「お、奈未じゃん!!おかえりー」
「あ、もう帰ってたんだ……」

お兄ちゃんはリビングから顔を出して私に気づいた。

……今はこんな顔で会いたくないのに……

「あたりまえだろ?ってかなんだよ奈未、俺が帰ってきたっていうのに素っ気ないじゃねーか」
「あ、ごめん……」

やっぱり気づかれた……。

本当はただいまって笑顔でリビングに入りたかったのに……。

「ま、いいや。とにかく早くうち入れよ。今日はすき焼きだとよ」
「……そっか……」
「んだよ……奈未すき焼き好きだろ?」
「うん、好きだけど……」

好きだけど……大好きだけど……今は春樹しか頭に浮かばない……。

「……じゃ、私ちょっと着替えてくるね?」
「お、おう……早くしろよ?」
「うん……」

私はお兄ちゃんの言葉から逃げるように部屋に駆け込んだ。

ーバタン

「はぁ……」

ドアの閉まる音で一気に周りが静かになる。

「もう……無理……」

私は壁にもたれてその場に崩れ落ちる。

今……春樹は何してる……?

病院で……残酷なこといわれて泣いてる?

そしたら……私を憎んで……恨んで……そうするよね……?

でも……私……そんなことより……春樹に会いたいよ……。

最低な奴でごめんね……?

私……最低だけど……春樹に……会いたいことしか頭にないんだ……

とにかく春樹に抱きしめて欲しいの……

少しでいいから……ちょっとでも……春樹の温もりに触れたいの……

ー「こんにちはー」
「お、海斗じゃん!!お前デカくなったな!!」
「そんな変わってないっすよ」

下から海斗とお兄ちゃんの声が聞こえる。

そうだ……下に行かないと……。

今はお兄ちゃんが帰ってきたことを祝福してあげないと……。

私は重い足を持ち上げて部屋着に着替えてゆっくり階段を降りて行った。



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