幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
「では拙者はここで」
そう言って殿内は座敷を出る。
その背中を見送りながら、芹沢はお猪口に口をつける寸前でにやりと笑う。
「ふん、お手並み拝見といこうか。小娘」
ぼそっとそう呟く。
まさか、あそこまでの殺気を放てるとは思わなかった。
所詮は小娘と侮っていたが、どうやら少し違うらしい。
あの娘の殺気は尋常ではなかった。
以前から思っていたが、あれはただの幸せな娘ではあるまい。
でなければ、いつ死ぬかも分からぬ浪士組に名を連ねたりはしないだろうし、何より、浪士組にいる誰よりも凄みが違う。
女なのに尋常ではない強さ。
(あれは………)
過去に何かあるに違いない。
人を殺したことがあるか、それとも……。
かけがえのない大事なものを失ったか。
芹沢は、決して勝ち目はないであろう殿内を哀れに思った。
(あの娘を怒らせたのが運の尽きだったな)