幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜














「でもなんで、殿内と刀を交えあってんだよ……!?」








走っているために、息を切らしながら平助が問う。









原田はしかし、首を傾げるしかなかった。









「わからねえ。だがあいつが、意味もなく刀を抜くとは思えねえ」













それを聞いた平助はしばらく口を紡ぎ、顔を俯く。












「俺……あいつには……人を殺してほしくねえよ」










呟かれたのはそんな些細な願い。








だが、原田をそれに顔をしかめる。








「そりゃあ無理だろうな。あいつは浪士組の一員。いつかは人を殺さなきゃならねえ。平助、変な考えを起こすんじゃねえ」












「でも………」









耳障りな小さい声でしつこく反論しようとする平助を黙らせるべく、原田はいきなり立ち止まると思い切り平助の胸倉をつかみ、平助を殴り飛ばした。










ずるずると地面に身体を引きずり、平助は左之を睨む。










殴られた部分をさすりながら、平助はむくりと起き上がる。









「痛ってえな!何すんだよ、左之さん!!」









だが、原田が言い出したのは謝罪の言葉ではなった。











「いいか平助!そんなことを思ってるのはお前だけじゃねえんだ!いやむしろ……あいつを娘として想ってる近藤さんのほうが、よっぽど辛いんだ。娘の手を血で汚させて、喜ぶ親がいるか!?でもな……、俺たちが歩んでいく道は、そういう道なんだよ!!あいつだってそんなことは分かってる!平助……、次にそんな甘ったれた戯言を言ってみろ!一発殴っただけじゃ終わらねぞ!」












鬼気迫る原田の怒号に、平助は開いた口がふさがらなかった。









だが、その思いを真摯に受け止め、平助は衣についた土ぼこりを払いながら、ぐっと唇を結ぶ。









「分かってる……そんなのは分かってんだ……。あいつとずっと一緒にいた近藤さんや土方さん、総司のほうが辛いのは決まってることも。俺たちがこれから進むべき道が、明日の命も知れぬ道だってことも。全部知ってんだ……」









平助は溢れる感情を胸に空を仰ぐ。










今日の月はなんて綺麗なんだろう。












きらきらとした月光が目に眩しかった。















「悪りい左之さん。取り乱しちまった。左之さんも同じなんだよな。ごめん、俺……」









「それが分かればいいんだよ。俺も、いきなり殴っちまって悪かった。行くぞ」











そうして二人は、譲を見つけるべく、再び走り出した。


















< 138 / 261 >

この作品をシェア

pagetop