幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
すれ違う想いたち
八木邸の門の前にはすでに人だかりがあった。
譲は先程、強風で解けてしまった長い髪を結いなおして、いつも通りの男の髪型に仕上げる。
みな不安げな表情にあちこちを見ているが、やがて遠くから譲は平助と目が合った。
すると一斉に皆の顔がこちらに向けられる。
しかし譲は慌てることもせず、自分が返り血まみれであることを包み隠さず、歩調を緩めることもなかった。
譲の姿を見ると、その場にいた全員が驚きを隠せずに目を大きくした。
そんな反応とは対照的に、土方さんは苦悶の表情だった。
「お前………殿内を………」
そんな小さな声が闇に溶ける。
譲は、土方のその言葉を聞き逃さなかった。
「はい。詳しい話は中で致します。では、着替えてくるので……」
譲は感情のない冷たい声でそう告げると、皆の間を掻い潜って門を潜った。
そして誰もが、譲が纏っていた全てを凍てつかせるような冷気に、背筋を凍らせた。