幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
譲は暗い部屋に行灯の明かりもつけず、いつもの袴を脱ぎ、念のためにとあらかじめ用意しておいた新しい袴に着替えた。
きゅっと襟元を整え、部屋を出ようとしたところであることを思い出す。
開けかけた襖から手を放し、もう一度閉めなおすと、譲は代わりに押入れを開けた。
畳まれた布団の下に手を伸ばし、がさがさと探ること数分後、麻袋の紐の感触を手に感じ取り、譲はそれを引き出した。
小振りの麻袋を弄ぶと、ちゃり…と音がした。
そうこれは、譲は島原で働いて貯めていたお金。
また花街で働いていることを知られるとみんなに幻滅されると思って、今までずっと隠していたが、この浪士組の剣になると腹を括った以上、隠し事をするのは嫌だった。ましてやこういうことこそ、きちんと話をつけておきたい。
譲はそれを懐に忍ばせると、土方さんの部屋に向かった。
一つ、息を吸う。
さあ、もう、戻れない。
自分は殿内を斬った瞬間から……いや違う。
譲は首をわずかに振る。
村の襲撃を生き延びたその日から、自分は決定的な運命の曲がり角を曲がってしまっていた。