幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
無事に周斎先生の許可が下りると、近藤さんはどこか嬉しそうに笑っていた。
私の手を引きながらにこにこしている。
「うんうん。君みたいなかわいい娘なら、養女に大歓迎だ」
そう何度も呟いて。
そんな近藤さんだから、ここに来て良かったと思う。
一度は振り払ってしまった手だけど、近藤さんはもう一度差し伸べてくれた。
私はもう、その手を離さない。何が何でも。
「しかし、君の着物はどうにかしなくてはならぬな……」
廊下を歩きながら、近藤はある部屋の前で止まった。
「少し、待ってておくれ」
そう言って中に入ると、女の人の声がした。
ややあって、近藤が部屋から出てくる。
その手にはきちんと手入れされた幼子が着る着物があった。
「周斎先生の奥さんからいただいたんだ。これなら、君に似合うだろう。さっそく着てみてくれ」
と、ある部屋へ促される。
「ここは君の部屋だ。あとで布団なども持ってこよう。まあ、とりあえず着替えてくれ」
手にしていた着物を譲に手渡し、近藤は一度外に出た。
譲は言われた通りに着替えようと思い、腰の刀を外すと、風呂敷も畳に置いた。
血生臭い着物を脱ぎ、新しい着物に着替える。
「近藤さん、終わりました」
そう障子越しに伝えると、近藤がさっそく障子を開けた。
そしてまた、満面の笑みを浮かべる。
「うんうん。似合っているな。じゃあ、少し行こう」
「はい」
それから、近藤に手を引かれながら、譲は道場を案内された。厠に風呂場、さきほどの周斎の部屋の場所や、近藤の部屋の場所。
次々に案内され、最後に誘導されたのは、稽古場だった。
稽古場では、威勢のいい声と、何かを打ち合う音が聞こえる。
入ってみると、試衛館の弟子たちが、みな何かを手に持っていた。
「竹刀じゃない………」
ぼそっと漏らすと、近藤がそう、と頷きを返してくれた。
「この道場では木刀というものを使うんだ。竹刀は軽いからな。重いものをもったほうが、力がつくだろう」
なるほど……と譲が頷いていると、近藤が大きく手を叩いた。
「みんな、聞いてくれ」
稽古場一同が近藤に振り返る。
そしてその視線はすぐに、譲に向けられた。
「今度、うちの道場で、俺の養女として預かることになった譲だ。仲良くしてやってくれ」
肩を押され、慌てて譲はお辞儀する。
「えっと…、龍神譲といいます。よろしくお願いします」