幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
挨拶が済むやいなや、一人の弟子が、質問があるみたいで手を挙げた。
「ん? どうした?」
「若先生、その娘、剣術の腕は?」
その質問に、譲の血が騒ぐ。
弟子の聞き方が、腹に立ったのだ。
まるで、自分を見下しているかのような目だったから。
「あります」
答えたのは譲だった。
無意識に口が動く。
「私と、試合をしてください」
弟子がにやりと口角を吊り上げる。
勝機を確信し、勝ち誇った顔だ。
「しかし……大丈夫か? 君はまだ……たしか……」
「五歳です」
「そうだろう。 いくら君が強いとはいえ、相手は十二だ。身体の大きさもまったく違う」
近藤はどこかためらっていた。
譲は真っ直ぐに近藤を見つめる。
きっと近藤さんは迷っているだけだ。
私が普通のか弱い女子でないことは、近藤さんも知っている。だって、自分が浪士を斬る場面を見ていたから。
近藤さんは単純に、心配しているだけ。
「お願いです。やらせてくだい」
真剣に訴えると、近藤はとうとう折れた。
「わかった。だが、無理はするな」
「はい。おきづかい、ありがとうございます」
木刀は竹刀と比べて重さが全く違った。そう、重さはちょうど刀ぐらい。
譲と弟子は向かい合うと、一度互いの木刀をあわせ、位置についた。
譲も弟子も、木刀を中段に構える。
「では……始め!」
近藤が合図をすると、弟子が先手を打ってきた。
木刀を上段からそのまま振り下ろす。
(遅い……!)
難なくそれを見切り、譲は弟子の背中を突こうとした。
だが直前で嫌な予感がし、一歩後退する。
予想通り、弟子は振り返りざまに譲の木刀を払おうとしていたのだ。
(危ない……)
再び向かい合い、今度は譲が走り出す。
目にもとまらぬ速さに、動揺した弟子が、太刀筋の形も関係なく、木刀を振り回す。
それらの攻撃も全て避け、譲は、弟子の鳩尾に的確な突きを見舞った。
「勝者、譲!!」
それからというもの、弟子たちの冷たい視線を浴びることにはなったものの、試合を申し込まれることも、見下されることもなくなった。