幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
「総司!やめて!お願いだから!」
譲の声も総司には遠く聞こえない。
彼の冷静に物事を判断できる状態では
なかった。
この状況を打破しようと、佐伯の隙を狙うが一向に隙は見つからない。
悔しげに歯をくいしばる譲をみて、佐伯の陰険な笑みがますます濃くなる。
佐伯はわざと刀の刃先を譲の首筋に近づける。
それに反応して総司の表情が険しさを増し、わずかに一歩、佐伯に近づく。
そんな状況を佐伯はあろうことか楽しんでいるようにも見えた。
その刃先は今にも譲の柔い肌を切り裂きそうだ。
「組長…この女がそんなに大事ですか?ならば一歩も動かないことですね」
佐伯が畳に倒れていた譲を無理やり起こし、喉元に刀を当てがる。
「君の目的は何?」
いつもと違うおぞましささえ感じられる
総司の低い声。
だが佐伯は余裕の笑みを浮かべていた。
「組長ともあろうお方が随分と余裕のないことだ。なぜそこまでこの女にこだわる?」
「僕の質問に答えろ。答えなければ殺す」
佐伯は高笑いをする。
「あくまでも答えないですか。ならばここちらがあなたの質問に答える道理もない。強いて言うのならば、このことを誰かに告げ口すれば、この女の身が危ないということですかね」
「どういう意味⁉︎」
しかし佐伯は最後まで質問に答えないまま、懐から金が入った麻袋を畳に投げつけると、身動きの取れない譲を蹴りつけ、そそくさと部屋を出る。
すぐさまその後を追おうとした総司だったが、譲のことの方が気にかかり、つま先の方向を変えた。