幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
「譲‼︎」
総司が畳に倒れている譲を優しく抱き起こすのと同時に、譲の側仕えだという花緒が障子を押し開けて、譲のもとに駆け寄った。
「姐さん!大丈夫⁉︎しっかりして!」
涙目になりながら花緒は必死に譲に呼びかける。
その呼び声に応えるように、何度かの瞬きの後、譲は静かに体を起こした。
その目はひどく弱っており、身体は小刻みに震えていた。
後のことは花緒に任せて、佐伯を追おうと立ち上がる総司を、譲は声で制する。
「総司!……いいの。もういいのよ。
お願いだから……」
弱々しい声音で、譲は乱れた着物をぎゅっと握りしめる。
総司はこんな状態の譲を放っておくことができなくて、その場にとどまる。
なんとも言えぬ雰囲気の中、花緒がおもむろに立ち上がり、譲に呼びかける。
「姐さん。今日はもう着替えて帰りましょう。女将さんには私から話しておきますから」
花緒の提案をこくりと頷いて飲み込み、
譲は着替えるべく、別室へ移動した。