幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜


それを軽い返事で受け応えしながら、平助はきょろきょろと辺りに視線を配っていた。


「あれ?左乃さんと譲は?昨日、試合観に行くからって言ってたのに」



「そうなんだよ。二人で仲良く茶でも飲んでんのか?上覧試合だから、今日は隊務もなく、非番だし」




「…………」




やれやれと首を振る新八とは対照的に斎藤は密かに眉を寄せる。




ただ、気楽に茶を飲んでいるだけならいいのだが。



しかし次の試合は自分の番。会津公にこの浪士組を気に入ってもらうためにも、今はそちらに集中しなければ。



斎藤は心もどかしいながらも、新八と幕の中にはいった。



「茶飲んでるとか、左乃さんってそんな風流人だったか?」



「茶を飲むのと風流は関係ないんじゃないかな、馬鹿助」


ぴくりと平助のこめかみが反応する。



「誰が馬鹿助だ!総司!」




「えー、だって馬鹿助じゃない。相変わらず平和で意味わからない頭だし」




悪びれる様子もなく、飄々と毒を吐く総司。




「なんだと…!勝負だ!総司!木刀を取りやがれ!」




「はいはい。山南さんとの試合が終わってからねー」



隣でキーキーとうるさく吠えている平助を完璧に無視し、総司は屯所を見つめる。



(後で探しにいこうか)



そう決めて、総司は勝負のことに頭の中を切り替えた。





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