幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
「会津藩主、松平容保公よりお褒めの言葉を頂戴した!今日は無礼講だ!諸君、好きなだけ呑むといい!」
近藤の言葉に隊士たちは歓声を上げて、待ってましたとばかりに一斉に杯を掲げる。
芹沢も今日は珍しく機嫌がよく、島原に遊びに行かず、屯所に留まって、みなと酒を酌み交わしていた。
「くっ…そう!あともうちょっとだったんだぜ!このやろう!」
上覧試合で斎藤に負けを喫した新八が吠える。
ヤケ酒のごとく尋常ではない量の酒を呑んでいた。
「新八!てめえ、それくらいにしとけ」
「だーもう、いいじゃねえか土方さん。勝者に敗者の気持ちは分かんねえって」
同じく酔っ払いの平助が新八の肩をもち、土方を揶揄する。
土方が呆れているその横で山南は総司に酒を注いでいた。
「強くなりましたね、沖田くん」
「いえ、こんなのまだまだですよ。僕はもっと強くなりますから」
ニヤリと笑いながらもその視線は山南を見てはいなかった。
目敏い山南は自分の杯に酒を注ぎながら口を開く。
「譲さんのことなら心配ないでしょう。きっと原田くんが気を利かして気分転換に外に連れているのでしょう。最近の彼女は、少し疲れてしましたしね」
それでも総司の気は安らぐことはない。何かあったのではないかと不安に駆られる。
すると向かいに座っていた斎藤が立ち上がり、障子に手をかけた。
「あれ?どこ行くの?斎藤君」
「少し外の風にあたる。酔い覚ましだ」
と言い置いて、宴会の部屋を出る。
「それじゃあ僕も、酔い覚ましに行こうかな」
しかし、立ち上がろうとした総司の手を強く掴んだそれがあった。
総司は危うく姿勢を崩しかけ、また座らされる羽目になる。
「なんなのさ、馬鹿助と呑んだくれさん」
「だーかーらー、誰が呑んだくれだっての!覚悟しろよ総司!今夜はかえさねぇぞ!」
「そうぉーだ、そうぉーだ!左之の代わり、とことん付き合ってもらうぜ!」
と、泥酔しているタチの悪い酔っ払いに捕まった総司はしばらく宴会の席を抜けることができなかった。