幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
暗闇の中、父と母と兄がいた。
三人は一度笑顔で譲に振り返ったあと、どんどん手の届かない方へ消えて行く。
「お父様?お母様?兄さま?」
ついて行こうと走っても一向に追いつく気配がない。
それどころか距離は遠くなるばかりだ。
「まって!」
手を伸ばすが、無論それは届かない。
その指先の先、三人の姿が闇に溶けるー。
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「行かないで!」
ガバッと身体を起こすと、そこは簡素な部屋だった。
「夢………?」
徐々に我にかえるうちに額には冷や汗が流れ、自分が大きく息を切らしているのが分かる。
「ここは……」
「俺の部屋だ」
声の方向に顔を向けると、左之さんが壁にもたれていた。
どうして自分が左之さんの部屋で布団で寝ていたのか、譲は整理ができていなかった。