幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
「どうして私……一体何が」
頭を抱えていると、左之さんが手を伸ばして、その冷たい手が額には触れた。
「熱はねぇみてえだな」
よかったと呟きながら一息つき、左之さんは居直る。
何があったのか、自分の身に何が起こったのか未だに理解が追いついていない譲が首をかしげていると、左之さんが説明してくれた。
「お前、俺との稽古が終わった後に倒れたんだよ。すげえうなされてて、まったく肝が冷えたぜ」
「上覧試合は!?」
身を乗り出して尋ねるが譲は暗い部屋に灯るろうそくの炎を見て悟る。
「もう終わったよ。大丈夫だ。あいつらに心配をかけねぇように、お前が倒れたことはまだ言ってねぇよ」
そう…、と譲の独り言の後に、しばらく譲の容態を見ていた左之さんが、立ち上がった。
「さってと、俺は八木さんの奥さんからでも粥をもらってくるから、それを食ったら少し落ち着いて寝ろ」
譲の返事も待たずして、左之さんはすたすたと廊下を歩いていく。
遠ざかっていく足跡を聞きながら、譲は一人、布団を掛けなおす。
目を閉じればまたあの光景が夢に出てきそうだった。
その恐怖に、譲は一人身震いした。