幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜





辺りが白けるなかどこかから声が飛んだ。



「俺も賛成です」



左之の提案に同調する声があった。




さっと障子が開かれると、そこには譲に付き添っていたという斎藤がいた。




「本気で言ってるの?左之さん、斎藤君」




動揺を隠せない総司に、二人はいたって落ち着きながら頷いた。




「そうだな……」



土方が呟き、近藤さんも考え込んでいる様子を見せる。



しかし総司は黙っていなかった。



「僕たちのために一生懸命になってくれた譲を裏切るんですか!?もうお金に困ることもないからあっさり捨てるんですか!?譲がどんな思いでここにいるか、近藤さんや土方さんならわかるでしょ!?」




「ですが、このままここにいれば、譲さんが傷つくのは目に見えています。彼女が私たちこの浪士組を護ろうとしていることは重々承知の上ですが、その結果、彼女はさらなる無茶をおかす。私たちのためになら、人を斬ることに何の感情も持たなくなる」




「いや、正しくはすでに持ってねえな」



山南の話に言葉を挟んだのは土方だった。




「殿内を殺したあいつには、なんの躊躇も動揺もなかった。ほっとけば、この浪士組一の人斬りになっちまう。そうなる前に、江戸に帰すのがいい」





「でもよ……」



平助がたじろぎながら、小さな声で言う。



「覚悟をもってここに来たやつを江戸に帰すってよう……なんか……いやだな」



「そうだぜ!納得がいかねえ!」




「何いってんだ平助、新八。譲が人を斬らずにすむんだぜ。そういう汚れた役目は、俺たちが背負っておけばいいんだよ」




左之に諭され、新八と平助が気に食わない顔をしながらも、だんまりになる。




広間が水を打ったように静まりかえる中、近藤が意を決したように目を上げた。




「そうだな。譲には明日、俺とトシから伝えよう」



そう言って近藤は、広間を後にする。



「待って近藤さん!」


「待つのはてめえだ!総司!」


近藤を追いかけようと走り出そうとした総司の腕を、土方が素早くつかむ。



ぎりぎりと奥歯を噛みながら、総司は土方を冷視する。



「離してください、土方さん」




「うるせえ。今お前を近藤さんと譲のところへ行かせるわけには行かねえ。斎藤、山南さん、総司を見張っててくれ。明日までだ」




言い捨てると土方は総司の腕を振り払って広間を出る。




後を追おうとすると、斎藤と山南が立ちはだかり、総司はどうすることもできずに、拳を握りしめた。
























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