幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜
「座れ」
二人と対面する形で、座布団に座れと首で示され、譲はおそるおそる座った。
妙な沈黙と緊張感が部屋を満たし、譲はごくりと生唾を飲み込んだ。
この空気を破ったのは、近藤さんだった。
「譲……」
近藤さんはこほん、と一つ咳をすると、いつもの温和な表情からは想像がつかない厳しい表情に変えた。
譲は何を言われても心が折れないように、気を引き締めた。
「譲、江戸に帰りなさい」
『江戸に帰りなさい』
その言葉が何度も何度も心の中で反響する。
近藤さんが何を言っているか、意味がわからなかった。
譲の世界が灰色になる。
そんなことはない。そんなことはない。
何度も自分に言い聞かせながら、譲は震える声で問うた。
「今……なんて」
語尾が震える。
だが近藤さんははっきりと告げる。
譲をその目でしっかりとみつめて。
「江戸に帰りなさい」