幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜




「座れ」



二人と対面する形で、座布団に座れと首で示され、譲はおそるおそる座った。




妙な沈黙と緊張感が部屋を満たし、譲はごくりと生唾を飲み込んだ。



この空気を破ったのは、近藤さんだった。




「譲……」



近藤さんはこほん、と一つ咳をすると、いつもの温和な表情からは想像がつかない厳しい表情に変えた。



譲は何を言われても心が折れないように、気を引き締めた。



「譲、江戸に帰りなさい」



『江戸に帰りなさい』



その言葉が何度も何度も心の中で反響する。



近藤さんが何を言っているか、意味がわからなかった。


譲の世界が灰色になる。



そんなことはない。そんなことはない。




何度も自分に言い聞かせながら、譲は震える声で問うた。



「今……なんて」




語尾が震える。





だが近藤さんははっきりと告げる。
譲をその目でしっかりとみつめて。





「江戸に帰りなさい」






< 202 / 261 >

この作品をシェア

pagetop